2018年に読んだ本

歴史、ゲノム、経済学が多かった。哲学はあまり読まなかったな。

おすすめ3選は下記。

個人ベストはこれ。

では、読んだ本を紹介します。

バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)

バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史 (中公新書)

オスマン帝国崩壊からバルカンの各国にナショナリズムが生まれる経緯でいろいろ揉め事が増えたよね、オスマン帝国時代はそれなりに様々な民族や宗教が共存できていたのに…というかその頃は民族をアイデンティティとするナショナリズムってなかったんだよね、という本。若干難しい。

ゲノムで社会の謎を解く――教育・所得格差から人種問題、国家の盛衰まで

ゲノムで社会の謎を解く――教育・所得格差から人種問題、国家の盛衰まで

2018年は偶然手にとったこの本のおかげですっかりゲノムにハマってしまった。ゲノムは社会的格差を解明するのか?能力は遺伝するのか?それはどこまでゲノムからからわかるのか?環境との関係は?などといった話題が細かく検証される。パースペクティブも広いし話も細かいし、かなり難しい本。ただその分問題意識は(もやっとだけど…)広がった。

人体のしくみの本。高校の生物の授業の内容が抜けちゃってる人(僕です…)にはおすすめ。さっと読めます。

『ゲノムで社会の謎を解く』が若干手に負えないので途中で買って読んだ。理解が進んだけど、面白さ的にはイマイチ。

遺伝子―親密なる人類史(上) (早川書房)

遺伝子―親密なる人類史(上) (早川書房)

遺伝子―親密なる人類史(下) (早川書房)

遺伝子―親密なる人類史(下) (早川書房)

『ゲノムで社会の謎を解く』の前に読むべきはこの本でした。遺伝子に興味がある人にはまずこの本をおすすめします。長いけど、だいたい全体像がつかめます。読書としても非常に面白い。今年一番人に勧めたい本。

合成生物学の衝撃

合成生物学の衝撃

ゲノムを人工的に「書いて」生物を作るという、すごいプロジェクトをはじめとしてゲノム編集などの話も。なんと人工ゲノムで生物を作ることは原始的なレベルではあるけど実現しています。衝撃。とても読みやすい。人間への適用、テキトーにゲノムをいじった蚊を放ったら地球が長い時間をかけて作った生態系が不可逆に変わってしまうため倫理的な問題があるとか、そこら辺も触れられています。

CRISPR (クリスパー)  究極の遺伝子編集技術の発見

CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見

『合成生物学の衝撃』でも出てくる遺伝子編集技術、CRISPRを開発した人の本。『合成生物学の衝撃』を読めばOKかも。CRISPRの技術的な側面に興味を持った人は読んでもいいのでは。

ミクロ経済学は「人間は合理的に行動する」って前提のもと需要と供給の関係で価格が決まるよね」って話なんだけど、そもそも人間は合理的に行動していない。というところからスタートする、ミクロ・マクロ以降の現代経済学をコンパクトに密度高く説明する本。ゲーム理論行動経済学は有名だけど制度論のところが興味深かった。最終的に規範的な議論を無視できないよねという哲学っぽい問題意識に帰着していくのも面白い。

経済史の構造と変化 (日経BPクラシックス)

経済史の構造と変化 (日経BPクラシックス)

『現代経済学』の精度論の説明の主となっているのがダグラス・ノース。数年前になにかで興味をもって積読してあったのを読み直しました。今年のナンバー2。以下感想のツイートを引用します。

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

『イノベーションのジレンマ』で言っていることがほんとうに正しいのかを経済学で解明する本。『イノベーションのジレンマ』を題材にした実演!実証分析って感じ。僕らが仕事でやっている「データをもとに何か確からしいことを発見する」ってやつは、たぶん経済学を使いやすくアレンジしたものだと思っている。この本はそれのプロのやり方を追体験できるのがよい。ということでデータを使って意思決定している人全般におすすめ。語り口も軽妙で1読書としてもとても楽しい。

薬物依存症 (ちくま新書)

薬物依存症 (ちくま新書)

薬物依存症の第一人者による薬物依存症全般についての解説と、著者が進めた日本における薬物依存症の回復プログラムの歴史。多くの誤解があり、現状の「ダメ・ゼッタイ」という公的機関によるメッセージでは依存性者は減らないという理由がわかる。危険ドラッグが流行ったメカニズムは戦慄した。触れられにくいけど確実に存在する社会問題なので、この本は多くの人に読んで欲しいです。

定理のつくりかた

定理のつくりかた

定理のつくりかた、というか「問題の解き方」の本。汎用的なティップスが詰まっててサクッと読めるので実用書としても有益ではないか。特にプログラマーの人にはおすすめ。たぶん中学数学くらいで読めます。読みやすいし、面白かった。

もののふの血

もののふの血

突然ハマった。ひたすらローキックで戦うスタイルが渋すぎて…。

だが、努力にまさる天才は無いと言われるように、才能などというものは格闘技においてはそれほど重要ではない。要は、どれだけ強くなりたいか。強くなるためにどれだけの努力ができるか。そして、そのモチベーションをどれだけ長く保つことができるか。それに尽きると思う。

という一節は心に残りました。

ゼロからはじめる音響学 (KS理工学専門書)

ゼロからはじめる音響学 (KS理工学専門書)

ギターの演奏の出来を定量化したくて、ひとまず概要を把握するべと思って読んだ。とてもわかりやすかった。音楽関わる人は読んで損なさそう。僕も早く読めばよかった。

Pythonチュートリアル 第3版

Pythonチュートリアル 第3版

ギターの演奏の出来の定量化をPythonでしようと思って、文法などうろ覚えだったので通読した。その後やったDjangoふくめ、Pythonは何かと明示的でいいですね。仕事で使ってみたい。

ピアノ・ノート

ピアノ・ノート

ピアニストが書いた、ピアノという楽器やその演奏についての本。理解が深まってより楽しめるようになった。クラシックの音楽教育とその功罪についても触れられていて、知らないことばかりなので勉強になった。教科書的な記述というより著者の音楽感が出ている本で、それがとてもよい。音楽に長く深く触れている人の知見は響く。「音楽は自分のためでも聴衆のためでもなく、音楽のために演奏されている」という一節は感動した。そうなんだよなあ。

統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)

統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)

人を軸に統計学の歴史をひもとく本。数式が出てこないので逆にややこしい面があるし、そもそも統計的な知識って演繹的な知識と比べて何が違うの?って裏テーマを理解してあげるためにも、ある程度統計学を理解してから読んだほうが楽しめると思った。とはいえ面白かった。

地面師やばい。

終戦の日大日本帝国陸軍のクーデターをめぐって。終戦の日にノンストップで読んだ。

鈍感な世界に生きる 敏感な人たち

鈍感な世界に生きる 敏感な人たち

HSP(Highly sensitive person)といって、要はめっちゃ敏感な人がいるらしい。僕もその気があるなあと思い読んでみた。いるっぽいです。同じ人がいるんだな、と思うと気が楽になった。

なんだか人文界隈で話題になってるな?と思ってふと読んでみたらめちゃくちゃおもしろかった。明治維新って封建制から近代国家に変化するプロセスで最も血が流れてない例のひとつみたいで、なんでそんなにうまく行ったの?というのが「公議」という概念を軸に解説される。ちなみに坂本龍馬の活躍エピソードとかは全く出てこない。そういえば平成も終わりだし、憲法も変わりそうだし、そんな今のリベラル・デモクラシーのルーツを探るって面で読むと面白いと思います。今年は歴史の本を沢山読んだけどこれが一番良かった。

リベラル・デモクラシーのルーツを探る、という路線で『維新史再考』の続きとしてこれを読むと良いです。明治維新から20年ちょいの帝国議会開設までの歴史を解説する本。貴族院の立場、どの程度リベラルにしたらちゃんとやっていけるか、などなどの論点をめぐって綱引きが沢山あったことがわかる。

文明史のなかの明治憲法 (講談社選書メチエ)

文明史のなかの明治憲法 (講談社選書メチエ)

さらに明治憲法について深掘り、というか伊藤博文岩倉使節団についてもうちょっと読み物的な内容を楽しみたいならこれ。伊藤博文がめっちゃがんばったことがわかる。

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)

明治史講義 【テーマ篇】 (ちくま新書)

最近しょうもない歴史本が多すぎるので俺たちが本物を見せてやるよ、という意気込みで書かれた『昭和史講義』シリーズの明治編。歴史ってきれいな通史にまとめきれない複雑な事情があって成立しているんだな…というのが実証的な研究からわかる。テーマごとにコンパクトにまとまっていて読みやすい。

その『昭和史講義』がこれ。第一線の昭和史研究者が集まって全体像を描く、という本。すごい面白い。さっきも書いたけど、とにかく歴史は複雑。まともな歴史の本が読みたい人にはおすすめします。

経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く (新潮選書)

経済学者たちの日米開戦:秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く (新潮選書)

さらに昭和史。開戦前に秋丸機関という組織が「経済力違いすぎて勝てないっす」という報告を出していて、なんと陸軍でも海軍でもそれがコンセンサスだったという。それなのになんで開戦したの?というあたりを行動経済学を使って解説するという歴史と経済学が好きな人は興奮が禁じ得ない本。歴史と経済学と組織の意思決定に興味がある人にはおすすめ。『失敗の本質』の高解像度バージョンとしても読める。

遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 解題:美学としてのグリッドシステム

遊びある真剣、真剣な遊び、私の人生 解題:美学としてのグリッドシステム

スイス・タイポグラフィの代表的な作家の自伝。想像以上に信念の人で自伝としてとても面白かった。

50年代末、私は自分の職業的活動をより意義深いものにするため、あらたな方針を定めた。それは造形者として一般社会に害になり得る仕事の依頼は全て断るというものである

とか。抑制的なそのタイポグラフィも、プロパガンダとならないように最新の注意をこめて「内容」を中立的に伝えるという意味があったそうな。いち職業人として感銘を受ける部分が多かった。

経済学は役に立ちますか?

経済学は役に立ちますか?

そういえば読んだことないな…と思って読んでみた。規範的な議論が抜けているというか、本当に弱肉強食で良いと思っているんだなあという感慨があった。

狭小邸宅 (集英社文庫)

狭小邸宅 (集英社文庫)

不動産ネタのパッと読める本として読んだ。笑った。

バルミューダ 奇跡のデザイン経営

バルミューダ 奇跡のデザイン経営

バルミューダのデザインがなんか好きになれなくて、その理由を探るべく読んでみた。けどよくわからなかった。たぶん伝統的なデザインを踏襲してないからだと思うんだけど…。

ベリヤ―革命の粛清者 (1978年) (ハヤカワ・ノンフィクション)

ベリヤ―革命の粛清者 (1978年) (ハヤカワ・ノンフィクション)

20世紀最強の悪人ことベリヤ。スターリンのもとで人を殺したり、人を殺したり、人を殺したりした人です。衝撃的だったのは、スターリンってもともとグルジアから出てきた人で、グルジアの共産化にはさほど貢献していないんだけど、それを知っている人を全員殺してスターリングルジアの労働者を開放した英雄として描く「正史」を作ろうとしたってところ。『共産主義国書 ソ連編』でも思ったけど共産主義自由主義の国家と違って「正解」があって、あるんだけどそれが権力者の都合によって恣意的に操作されるのが怖い。

シャルマの未来予測 これから成長する国 沈む国

シャルマの未来予測 これから成長する国 沈む国

面白くなかった。「ブレイクアウト・ネーションズ」をのアップデート版か。

信じない人のための〈宗教〉講義

信じない人のための〈宗教〉講義

宗教の本。信仰がない人の視点で書いてある。僕はこのジャンルは詳しくないんですが、この本ならある程度正確な理解と肌感覚が持てるのではないか。おすすめ。読み物としても面白い。

なんで読んだかわからない!コサックというウクライナの戦闘騎馬民族のお話。トルストイって感じで普通にお話として面白いしコサックの雰囲気が感じられる。

めっちゃ豊かな土地を持っているにもかかわらず、ロシア、オスマンポーランドと列強に翻弄されたウクライナの歴史。めちゃくちゃ面白いってわけではないけどよくわかる。 余談ですが2014年のウクライナ騒乱の後右傾化が進んでいるようで、ついにこんなフェスが開催されてしまいました。要はネオナチのメタルのフェスです。アメリカ含め世界中から相当な人数が集まったようです。ヘッドライナーのAbsurdは殺した人の墓をデモテープのジャケットにしたネオナチのバンドです。以前からネオナチのメタルは地下で細々と活動していましたが、ここまで大手を振ってやるとは。衝撃を受けました。しかも参加者をインスタで調査すると、メタルマニアというよりマッチョで入れ墨を大量に入れたMMAやってそうなおしゃれな人が結構多い。ウクライナでもマージナルな存在なのか、庶民の娯楽になりつつあるのか。注視していきたいと思います。

井上成美(新潮文庫)

井上成美(新潮文庫)

海軍兵学校に賢い人がいたっぽい、という情報から読んでみた。歴史の本としてはどうなのかなあ。前後関係としては昭和史の本を乱読する前に読んだ本なので、今となってはなんともいい難いところあり。ちなみに読んだ昭和史の本では井上成美はちょっとしか出てこなかった。

いろんな食べ物の話。食べ物好きが電車の時間つぶしで読むには良い。

シフト

シフト

結構面白かった気がするけど、もはや全然記憶にない。

ということで今年もいい本に出会えますように。

過去のもの:


  1. 「税金でファンドごっこをしよう」がツボでした